投資というものは、「チャートを眺めるだけ」では話になりません。
「下落局面こそ買い向かうべし」なんてのは非常に愚かな思い込みであり、根拠のないナンピン買いは、報われるどころか「神の見えざる手」でシバかれて即退場で終わるケースがほとんどです。
相場に長く居続けたいのであれば、
1.今何が起こっているか?
2.今後どうなると思われるか?
くらいはしっかり把握しておくべきでしょう。投資家というのは、常に「自分がしていること」を論理的に説明できなければなりません。
そのためには、手に入れた情報は正しく咀嚼しなければならない。つまり、マーケットが出す様々なサインを正しく解釈しなければならないのであります。
今回は、そういったサインの一つである「短期金利」「長期金利」についての基礎的な見方を述べたいと思います。
債権を簡単に説明しておく
まず、国債とは国が発行する債券のことです。
国が発行する債券とは簡単に言えば、国が借金をする上での手形みたいなものです。
僕らが債券を買うということは、国は債券の買い手である僕らに対して借金をしているということになります。
そして国債には償還期限(返済期日)が近いものと遠いものがあります。償還期限が近いものを短期債といいます。3ヶ月・6ヶ月・2年など比較的近いものが短期債です。
償還期限が遠いもののことを長期債といいます。たとえば償還期限が10年先、30年先のものとかがそう。
そして短期債・長期債にはそれぞれ「利回り」がありまして、基本的に長期金利は短期金利よりも高いと考えてください。
米国短期債の金利が示すものとは
短期債の金利は、主に中央銀行の意思で左右されます。たとえばアメリカであれば、米国短期金利の値動きはFRB(アメリカの中央銀行)の政策にリンクしています。
つまりアメリカの短期金利の推移をみれば、FRBが今何をしようとしているかを読み取れるということです。

上記グラフは米国の2年債の推移を示したものです。
2010年を境にガッツリ金利が下がっていますが、これはリーマンショックの後遺症に苦しむFRBが、景気対策に追われゼロ金利を導入したからです。
短期金利が中央銀行の意思を反映しやすいのであれば、当然ながら、アメリカの短期金利も低く抑えられます。そうしたFRBの意向をうけ、2012年には短期金利がほぼ底値を打っているのがわかるでしょう。
その後アメリカは徐々に景気が回復し続け、2014年初旬には、ようやくゼロ金利政策が解除されます。その後はテーパリング(資産買い入れ=ヘリコプターマネーの縮小)と同時に、「利上げ」が0.25%ずつ段階的に実施されることになります。
こうしたFRBの意向に呼応するように、短期金利も2014年から上昇しているのが、上記グラフから読み取れます。
というように、短期金利の値動きと中央銀行の意向はほぼ合致しているのであります。
ここからは余談ですが、そもそもなぜ景気が上がれば、政府は金利を上げたがるのでしょうか?
それは、インフレリスクが高まるからです。
長年デフレに悩まされてる日本においては「デフレ=悪」「インフレ=善」なイメージですが、アメリカの中央銀行はインフレを過敏に恐れています。インフレの兆候があれば、すぐさま「退治=利上げ」するくらいの勢いです。
そして、短期金利が上がるということは、景気拡大局面であると同時にインフレ傾向にもあるということです。
だからFRBは、インフレを退治するために利上げをするのです。
長期債の金利が示すものとは
短期金利の推移をみれば、今は景気拡大局面ということになるでしょうが、実際はそう単純なものではありません。
先ほども述べたとおり、短期金利の動きは主に中央銀行の意向に沿うものに過ぎず、中央銀行の意向だけをもって、「マーケット=景気拡大局面」と結びつけるのは早計です。
であればマーケット側の意思も確認しなければなりません。つまり、市場参加者側が今の米国の景気をどう見ているかを判断しなければならない。
そして、マーケット側の意思を確認する判断材料となるのが長期金利です。
長期金利には、マーケット側=市場参加者が今後の景気をどう予測しているかがあらわれているのです。
詳しく説明しましょう。
まず、長期金利が上がっているということは、債権が売られているということです。
投資家であれば、「債券と株は対照的に値動く」ってな理屈を聞いたことがあると思いますが、これは、「金利が下がる=債券が売られる」かわりに「株が買われる」または「その逆も然り」という図式のことを言っているのです。
「金利が下がる=長期債が売られる=長期債が値下がる」ということは、市場のお金が安全な債券よりもリスク資産に向かっているということ。
市場がリスク資産に向かうということはつまり、「今後も景気拡大が続くだろう」と市場参加者の多くが予測していることになります。
逆に長期金利が低下してれば、今後は景気が縮小していくのではないかと、市場参加者の多くが警戒しているということになります。

上記のグラフをみれば、現在、長期金利は下降から上昇に向かっているということがわかります。つまり、今後もアメリカの景気は好調を保つだろうと投資家心理が盛り上がっているということです。
これが、金利から読み取れる現在のマーケット環境なわけですが、実は、そう単純でもありません。
話を続けましょう。
長期金利と短期金利の差から何を読み取る?
次に、長期金利と短期金利を比較してみましょう。両者を比較することで景気の先行きをより正確に予測できます。
長期金利と短期金利の差が大きければそれは、「この先もまだまだ強い景気が続くだろう」「もっとインフレが進みそうだ」とのマーケットからのシグナルです。
逆に、長短金利差が小さければ、「この先、景気は腰折れするんじゃないのか?」との弱気なシグナルが出ているということです。

近年では長短金利の差が縮小傾向にあります。これはつまり、リーマンショック以降続いてきた景気拡大局面もそろそろ終わりなんじゃね? とマーケットが徐々に警戒し始めているということです。
とは言いつつも、ここ最近ではぐっと長期金利が上昇してきておりますね。同時に、長短金利差も縮小し始めている。
長短金利差が縮小するということは、投資家心理において楽観と悲観が対立しているということ。
つまり今のアメリカのマーケットは、「好景気もそろそろ終わりなんじゃね?」という警戒感と「いや、まだまだイケる!」という期待感との対立が起こっているということです。
マーケットは市場を警戒し始めている。どちらに転ぶかはウォーレン・バフェットにもわからない。
今後の動向は誰にもわからないということですが、少なくとも警戒感を強めるべき局面であるのはわかります。
こういった局面ではキャッシュ比率を高めておいたほうが良いと思います。
強弱感の対立こそまだ続いていますが、長期金利の推移と長短金利差の縮小具合をみれば、アメリカの株高もそろそろ息切れしてくる可能性も高いでしょう。