投資をはじめる方が増えてきたなと感じるのは、ここ最近のことでしょうか。
「そんな儲かるならオレも投資しよっかな?」
「投資しちゃってるオレって、ひょっとしてすでに投資家ですか?」
などといった、新米投資家と思しき方々の(心の)声があちらこちらから聞こえてきます。特に仮想通貨界隈では大盛り上がりの様相ですね。
テンションMAXなところ水を差すようで申し訳ありませんが、仮にも投資家を自称するのであれば、自分のやっていることくらいはシッカリ認識できていなければならないのでは?
ほとんどの方は「ノリ」で投資してる、ようにしか見えないのはとても残念なことです。それでは完全なる行き当たりばったり。
投資とは情報戦です。
相場とはあくまで「お金の奪い合い」なのであり、みなさんが想像している以上に熾烈なバトルが日夜繰り広げられている深遠なる世界です。遊びじゃないんですよ。
弱肉強食の世界で腰を据えた「投資」をするには、最低限のルールくらいは心得ておかなければなりません。
1.必要な情報を仕入れる
2.感情を排し観察する
3.冷静に分析する
なけなしのお金をなんとなーくぶち込んで一喜一憂するのは投資ではありませんよ。それはただの投機でしょう。
必要な情報を手に入れるには、不断の勉強と経験が必要なのはいうまでもありませんが、必要な情報を集めただけでは不十分です。せっかく良い食材を手に入れても調理の腕が悪ければ料理が不味くなるように、いくら重要な情報でも的確に分析できなければ意味がありません。
というわけで今回は、株式投資における分析手法の一つを紹介することにしました。
ファンダメンタルズ分析において重要とされる指標の1つ、ROE(Return On Equity)
今回は、この有名な指標について、その意味合いと実践的な使い方を述べてみようと思います。
ROEの意味を知り使い方をしっかり学ぶことで、必ずやあなたの投資にも深みが出るはずです。
Contents
そもそもROEって何だ?
紹介する書籍はコレです。
マネックス証券のチーフ・ストラテジストである、広木 隆 氏渾身の一作です。個人的な感想としては、「コレを熟読せずして、ROEを語るなど片腹痛いのではないか。」と思えるほどの良本です。内容は少々難解ですが、とにかく濃い。
今回ROEを主題に挙げるのであれば、当然、この『勝てるROE投資術』の内容に沿いながら解説するのがベストです。
ROEとは「いかに効率よく儲けているか」を表す指標である
ROEとは「Return On Equity」の略であり、Returnは「見返り」、Equityは株式のことであるから、ROEとは、ざっくりといえば「株主が出資したおカネに対するリターン(見返り)」という意味である。
まず、ROEの簡単な計算式を示しましょう。
ROE=当期純利益 ÷ 自己資本
と言われても、多くの方は「お、おぅ…。」としか言えないのではないでしょうか。式だけ示されても意味不明ですよね。
なので、もっとイメージしやすいよう時系列的な具体例をあげてみましょう。
1.あなたは起業しました。ビジネスにあなたが注ぎ込んだお金は3,000万円。
2.最初は苦戦したビジネスもなんとか無事軌道に乗り、年間600万円もの利益を出せるようになりました。
3.600万円利益を出せたといっても、それがまるごとあなたのものになるわけではありません。当然、税金やら人件費やら諸経費がのしかかってきます。その諸経費が360万円。
4.諸経費360万円を差っ引いた残りの金額240万円。これがあなたの会社の純粋な取り分です。(純利益)
5.つまり、あなたのビジネスは3000万円をつぎ込むことで240万円(8%)のリターンを得ていることになります。
この8%がROEなのです。資本に対する儲けの効率性が8%ということ。上記の例で言えば3000万円の資本で8%(240万円)の利益を生み出したということです。
当然ながら、ROEは高いに越したことはない
ROEが利益を生み出す指標だというのであれば、ROEが高いに越したことはありません。
ROE8%が10%になるということは、1000万円の資本に対する利益が80万円から100万円へとアップする。
というように、ROEこそ、ビジネスがいかに効率よく儲けてるのかをあらわす指標なのです。
であれば当然、ROEが高ければビジネス自体も高く評価されることになります。ビジネスが高く評価されるということは、将来を有望視されることにも繋がります。将来を有望視されれば、当然ながら投資資金も集まりやすくなります。
つまり、ROEが高ければ、その企業は投資先として人気化する、あるいは既に人気化しているのです。儲かるところにみんなが群がるという、あの群集心理が働くのです。
ROEは高けりゃいいってもんじゃない
ROEが儲けの効率性をあらわす指標だというのであれば、投資家心理としてはなるべくROEの高い銘柄(企業)に投資したくなるのは当然のことです。
このROEが注目されてきたのは日本ではごく最近のことです。2014年6月下旬にに「グローバル水準のROEの達成等を一つの目安」とする内容が閣議決定されたのは記憶に新しいところ。
JPX日経インデックス400
この株価指数は東京証券取引所に上場を行っている企業・3400社の中から、投資家に魅力の高い銘柄400社を選び、財務や経営(つまりROE)が優秀な日本の株式市場をけん引する銘柄の動きを指数として発表する。
この閣議決定とほぼ同時期に「JPX400」なる指数が発表されました。JPX400とは、比較的ROEに優れた企業のみで構成される指数のことです。
「閣議決定」と「JPX400」
この2つが示すところは、ついにあの日本政府がクソ重たい腰を上げた、ということ。
「そろそろ本気で株価を上げまっせ!」というわけですね。
そのインパクトは大きく、「だったら、とりあえずROEの高い銘柄に投資しておけば間違いないから!」といった風潮も国内には出てきています。
だったら、高いROEにのみスクリーニングかけて、引っかかった銘柄に投資すれば儲かるのではないか?
安易にそう考えてしまう方が出てくるのも無理からぬことでしょうが、
はい、コレ大間違い。
残念ながら高ROE銘柄に投資したとて儲かる確率は著しく低いのです。これが、現実です。
高ROEなど、すでに株価に織り込まれている
もちろん、高ROEを目指すのは企業にとっても日本にとっても良いことです。ROEを高く保つということは、稼ぐ力を身につけるということだから。
しかしながら、投資先という観点からでも良いことなのかといえば、それは違います。繰り返しますが、高ROE銘柄に投資したとて儲けられる確率は低いのです。
なぜか?
高ROE銘柄が有望視されるのであれば、当然ながら、投資資金も集まっているということ。投資資金が集まるということは、当然ながら、株価もグンと押し上げられているということです。
これを「織り込み済み」といいまして、織り込まれるということは、株価はすでに高く釣り上げられている状態となっています。
すでに十分に高くなった株価が、それ以上に跳ね上がるなどと期待できるでしょうか?
そこから上がるどころか、上がり過ぎてたぶん逆に下がる確率のほうが高いというのは言うまでもないことです。
ROEの平均回帰性
高ROE銘柄に投資しても儲かりにくい理由は、もう一つあります。
いくら高いROEを誇ったとしても、高すぎるROEは徐々に平均値へと収斂していくものなのです。つまり、高すぎるROEは徐々に下がるということ。
どういうことか?
高いROEを誇るということは、その企業のビジネスがすごく儲かっているということです。
ここで注意してもらいたいのが、そんなに儲かるビジネスなら他の企業とて続々と新規参入してくるでしょう。荒稼ぎしてるのを傍で指をくわえて眺めるほどお人好しの企業なんてありませんからね。
儲かる分野には競争原理が働くのです。
なかば独占的に利益をあげてたにもかかわらず、強力なライバルが増えるごとに顧客も利益もはぎ取られていく。
そうして、当初こそ独占的だったビジネスも徐々に陳腐化を余儀なくされる。当然、ROEも下がっていくというわけです。
業種別ROEの目安
参考までに、業種ごとの平均ROEをいくつか示しておきましょう。
セクター | ROE |
ゴム製品 | 9.09% |
医薬品 | 8.55% |
精密機器 | 8.36% |
輸送用機器 | 8.09% |
石油製品 | 8.03% |
鉱業 | 7.35% |
機械 | 7.32% |
食料品 | 6.64% |
卸売業 | 9.96% |
いかに飛び抜けた高ROEを誇る企業であれ、時の経過とともに、各セクターの平均値へと収まっていくものなのです。
だったらROEはどう使えばいいのか?
「高ROEへの投資が報われないのであれば、
そもそもROEなんて役に立たないじゃないか。」
当然ながら、そうなってしまいますよね。
ROEが高いということはビジネスが儲かっていることの証明であり、儲かる体質の企業に投資するのがダメだというのなら、一体どうしろというのか!?と。
ROEが役に立たないと断ずるのは尚早です。ROEは投資においては有効な指標であることに間違いはありません。要はROEの使い方の問題なのです。
ROEの有効な使い方は2つあります。
PBRを絡めて判断する
PBR(Price Book-Value Ratio)とは
PBR(株価純資産倍率)というのは、“会社の純資産と株価の関係”を表していて、PERと同様に株価の割安性を測ることができます。 これを使うと、企業の持っている株主資本(純資産)から見た株価の割安度がわかります。
PBRがROEにどう関係あるのというと、PBRが低ければROEがどうであれリターンが高く、PBRが高ければROEがどうであれリターンは低くなる傾向があるのです。
広木氏のデータによれば、もっとも高いリターンを示したのが、PBRが低くてROEも低い状態の銘柄らしい。詳しくは勝てるROE投資術をご参考に。
しかしながら、PBRに関しては僕は懐疑的です。
広木氏のデータはあくまで傾向を示したものに過ぎないから。低PBR銘柄つまり不人気銘柄のほうがリターンが高くなるというのは、つまりは万馬券に当たればリターンが大きくなるのと同じことではないかと。
当たればデカいのはわかるけど、どんだけ確率低いの?
高ROEを保ち続けている銘柄に投資する
ほとんどの高ROE銘柄が標準に戻ろうとする一方で、ごくわずかではありますが、長期にわたって高ROEを保ち続けている企業があるのも事実です。まるで、市場原理に逆らうように。
そういった高ROE銘柄を見つけだして投資すれば、期待以上のリターンが得られる、というわけです。
どうしてか?
ROEを高く保ち続けているということは、消費者からの支持を独占的に占めていることに他ならないから。つまり、多くの熱烈なファンを獲得しているということ、強いブランド力を築き上げているということになるのです。
これが、ウォーレン・バフェットの言う消費者独占企業です。
ROEを手掛かりに消費者独占企業を見出し、適切な株価でうまく投資できれば、そうそう大損こくことはないのです
では、どうすれば、高ROEを長く保ち続けている企業を見つけることができるのか?
データと向き合うことです。
残念ながら、それしか方法はありません。気になる企業があれば、とりあえずデータを確認するのです。ROEがセクター平均よりも高いのであれば、過去10年くらいまでさかのぼってROEを確認していく。
そうした地道な手順を踏んでこそ、しっかりとした選択眼が身につくのです。
最後に
最後の方は僕の私見が大いに入ってしまいましたが、ファンダメンタルズよりの投資をしたいのであれば、ROEという指標は押さえておくに越したことはありません。
今回紹介しました「勝てるROE投資術」は広木氏のROEに関する深い知見がこれでもかというくらい盛り込まれています。ただし、投資初心者の方には少々難しいと感じられるかもしれません。バランスシートや損益計算書の最低限の知識が必要になるからです。
難しいとはいえ、株式投資にはバランスシートと損益計算書の知識は必須です。
この機会に簿記の初歩を学んでみるのも良いと思います。得することはあれど損することはないはず。
難しいとはいえ、この本を丸ごと理解することができれば、投資に関する造詣はとてつもなく深くなることでしょう。
そう、投資家として、もう一つ上のステージに上がることができるのだから。