2017年10月、安倍総理は企業に対し「賃上げ」を要請しました。政府主導の賃上げ要請はこれで5年連続となります。
まぁ「賃上げ」とはいっても、幅的にはだいたい1〜3%程度の上昇でしかありませんけどね。この程度じゃキャバ代にもならんとはいえ、(一部の)サラリーマン世帯からすれば、ベースアップ自体は歓迎すべきことでしょう。
政府の目論見は至極単純です。
わざわざ政府が主導で企業に「賃上げ」させる目的とは、国民の消費意欲を刺激することにあります。
たとえそれが命令的なものであれ、国民の消費が多少でも増せば、お金は徐々に回り始めるだろう。お金がぐるぐる回りだせば、冴えない景気も徐々に活性化していくだろうとのこと。
つまり、「賃上げ」を「好景気」につなげたいというのが安倍政権の狙いなわけです。
しかしながら、これで日本経済が活性化するのか?といえば、そう上手くいっていないのが現実です。
そして、「こんな的外れなことやってるようでは、今後も景気に劇的な変化は生まれないだろう」というのが僕の見解です。
今回は、このへんの理屈を云々したいと思います。
政府主導の「賃上げ」の不自然さ
毎年の「官製春闘(賃上げ)」を見るたびに感じるのが、政府の要請に対し一部の企業がしぶしぶ従うという、このあまりの不自然さ。
安倍総理の主張としては、「こんだけ株価上げてやってんだから、今度はオレの言うことも聞いてくれや」といったところでしょう。現在の絶好調な日経平均株価は、公的年金や日銀の買い支え(官製相場)が多分に効いているのも確かですからね。
そもそも現在の日本において、「賃上げ」できるほどの余裕があるのは、体力のある大手の上場企業か、よほど効率よく儲けて内部留保がふんだんにある企業に限られるはずです。
いくら政府からの要請とはいえ、圧倒的大多数を占める普通レベルの企業には、「はい、わかりました!」などと気前よく賃上げできる余裕はありません。
官と民が必要以上に癒着し「市場原理を歪めまくる」のは、我が国の非常に悪いクセです。
市場原理に逆らってもロクな結果にならないのは、バブル崩壊以降の歴史が示すとおりであります。その歴史にならえば、いくら政府主導で景気対策しようとも、市場原理の前では全くの無力であるのは、もはや自明の理ではないのか。
まぁ、本気で今の日本の景気を上げたいのなら、政府がやるべきことは以下の4つ。
1.まずは旧態依然と蔓延るありとあらゆるクソ規制をドリルで粉砕する
2.主要な組織の主要な地位から「老害」を叩き出す
3.保守的な価値観にまみれた日本国民に、悲鳴をあげるまで再教育(IT教育)を施す。
4.ベンチャー精神とイノベーションの重要性を国民に認識させると同時に、「効率化」と「生産性」をも徹底的に意識させる
これではあまりに社会主義的だとの批判が巻き起こるでしょうが、そもそも、国民が愚かな国に民主主義は機能しないわけで。
従来の既得権益層は間違いなく路頭に迷うことになるでしょうが、我が国を真に再生させる方法は、こうした冷酷なまでのクラッシュ&ビルドの果てにしかないのであります。
無理やりベースアップして景気を良くするなど、そんな小手先の対策で救えるほど今のジャパンは甘くない。
企業が儲かってはじめて「賃上げ」できるのでは?
最近の日本企業は、収益面に関していえば確かに絶好調です。
円安も関係あるのでしょうが、バブル崩壊以降で日経平均株価は最高値を更新し続けるなど、ここ最近の日本企業の売り上げの伸びは目をみはるものがあります。
しかしながら、肝心の利益面となれば、


というように、欧米に比べればまだまだ見劣りするレベルです。
まぁROEに関しては、2014年を境に上がってはいます。
しかしながらこれは、JPX400指数がわざわざ設けられるなど、政府が「そろそろ稼ぐ力をつけんかい」と国内企業のケツを蹴ったからにすぎません。「稼ぐ力」が多少改善されたのは、企業の自助努力などではなく、むしろ政府からの外圧のおかげなのです。
そのROEが向上したにしても、上げ幅はあくまで「多少」ですよ。上の図が示すように、英国を「多少」上回っている程度で、水準としては決して十分なものではありません。しかもここ3年ほどは、再び横ばい状態というね。
日本企業の生産性の低さは、さほど改善されていない。と考えるのは、そう的外れでもないでしょう。
ブラック企業が蔓延っているように、労働時間の長さだけでいえば、日本人は世界トップクラスです。
ところが1人当たりの稼ぎはというと⤵︎

先進国の中では最底辺というこの悲しさ⤴︎
(現に僕の嫁の会社(上場企業)の業務内容は、ドン引きするほど効率が悪い。就労時間の半分が噂話とかね。当然ながらROEもROAもゴミレベル)
いくら企業の収益面が絶好調といっても、それが利益に繋がっているのか?といえば、大いに疑問符がつくわけです。
いくら消費の活性化をはかるとはいえ、企業利益がたいして増えてない中で無理やり「賃上げ」しても、トータルの消費量という面ではあまり意味がありません。
アメリカのマクドナルド相手に、従業員が最低賃金引上げろと大規模デモが起こした。
その後、確かに最低賃金は上がれども、逆にレジ担当はロボットに置き換えられ雇用者数はむしろ減った。
ってのは有名な話で、「ヒト」というのは、企業側からすれば削減すべきコスト以外の何物でもないわけです。
リストラ発表すれば株価が上がるように、今のグローバル経済においては販管費(人件費等)なんてのは減らしてなんぼなのであります。
それが世界経済のトレンドです。
政府の要請に従い社員の賃金を上げたところで、企業側からすれば、そのぶん逆に正社員の雇用を減らしたり派遣労働者を削減するなど、人件費の帳尻を合わせるもんなんですよ。
つまりは、一部の人の所得が上がるぶん、他の誰かの所得が減るだけのことなんですよ。結果、トータルでみれば国内消費量はそれほど変わらないという。
これが、「官製春闘(賃上げ)」というものの現実です。むしろ弊害のほうが目立つのではないか。
「賃上げ」なんてものは市場原理に任せとけ
賃金が上がる仕組みというのは、まずはインフレ等で物価が上昇し、その上昇率に伴い自然に賃金が上がっていく。教科書どおりではありますが、これが通常の経済の姿というものです。
「賃上げ」なんてものは、あくまで市場原理によって生じるのであります。少なくとも政府主導でやるものではないでしょう。

日本のインフレ率なんてのは、2017年でいえばたったの0.37%しかなく、デフレ脱却とはとても言い難い状況が続いています。
インフレ期待もなく景気も良くないとくれば、当然ながら、今の日本の雇用環境では賃金が上がる理由など何一つありません。
そこを無理やり「賃上げ」させるとなれば、先述のように非正規雇用者の待遇が悪くなったり、下請企業にさらなる値引きを迫るなど、とにかくロクなことにならないわけです。
所得の原資というのは、あくまで消費と企業投資なのです。
「無理やりでもいいから賃上げをして、消費の拡大につなげたい」という愛国心溢れる安倍総理の気持ちもわかります。
そして今の日本の現状をみれば、景気をあげるには、残念ながらそれしか選択肢がないということもよくわかる。
でも、本当に景気に意味のある「賃上げ」をしたくば、インフレを起こすか、景気をよくするか。この2択しかないんですよ。