怪僧ラスプーチンの最期 〜暗殺者もガクブルの規格外の変人伝〜

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1916年 年の暮れ  サンクトペテルブルク

 

ロシア屈指の名門貴族であるフェリックス・ユスポフは、その晩ラスプーチンを自宅へ招き、共にワインを酌み交わしていた。

ラスプーチンは、皇帝陛下が全幅の信頼を寄せる高僧である。

酌み交わすワインは当然上等な代物であり、この日の晩、ラスプーチンに振る舞うためだけにわざわざ取り寄せた年代物の甘口ワインだ。そのワインを、ユスポフの妻が杯が空くのを待たず注いでくれる。

ラスプーチンがユスポフ邸での晩餐の招待に応じたのは、本音のところはユスポフの妻イリナへの接近なのだが、その件は夫には言えないことである。

 

「あら、もうお酔いになりましたか?
酒豪のお方とお聞きしておりましたので、まだ数種類用意しておりますのに…。」

 

招かれた手前、勧めとあれば断るわけにはいかない。すでにほろ酔いだが、ラスプーチンは杯を空け続ける。

そうして数時間、ユスポフとラスプーチンはお互い興味ある分野の政治談義や神秘主義について意見を交わし続けた。

 

『こんな心地よい晩餐など何ヶ月ぶりだろうか?』

ラスプーチンは夫妻へのもてなしに感謝し、感動の思いで満ちていた。

 

ところが、実はこのユスポフという男、平静を装ってはいるが内心ではかなり動揺していた。

 

『マジか!? コイツ。』

 

『いやいや、あり得ないだろ!』

 

『一体、どうなってる!?』

 

妻のイリナに目配せをするが、妻の顔は青ざめており、夫以上の動揺が見て取れる。ダメだ。間違っても、ラスプーチンには心の動揺を悟られてはならない。

ユスポフの不安も杞憂に、鈍感極まるラスプーチンはソファの上でウトウトし始め、やがてイビキをかきはじめた。

これは、現実なのか!?

ユスポフ夫妻は、その言い知れぬ不気味さに夢か現かわからなくなっていた。

ラスプーチンに振る舞ったワインには猛毒が盛られていたのだ。そう、ありきたりだが効果のある猛毒、青酸カリだ。

 

『あの野郎!

一体何杯飲みやがったんだ!?』

 

ユスポフが別室で激昂する。致死量などとっくに超えた量の毒がラスプーチンの体内を巡っているはずだ。なのに…

 

なぜこの男は、イビキまでかいて

心地よく眠っているのか!?

グレゴリー・ラスプーチン

『怪僧ラスプーチン』とも呼ばれるこの男は、ロマノフ王朝末期に突如として現れた祈祷師・宗教家・神秘主義者である。

痩せてはいるが190cmを越す巨体。相手の心を見透かすような鋭い眼光と青白い顔をした聖者のような風貌。そして、相手がいかなる権力者だとしても、決して怯むことのない底無しの胆力。

人類史を見渡せば、奇人・変人と言われる人物は星の数ほど見かけるのだが、この奇人・変人の類を20世紀間に限定してスクリーニングをかければ、『グレゴリー・ラスプーチン』の右に出る者はいないだろう。

 

ラスプーチンは貧しい農夫の家庭に生まれた。

学校にも通えなかったため学もなく、字の読み書きすらもできなかった。

しかし彼が20歳を越えた頃、何を思ったか妻を置き去りにして「巡礼」に出かけている。どうやらその理由は、仕事中に神か聖母マリアか何かからの『御告げ』があったからだという。

100%勘違いだったに違いないのだが、笑い話では済まない。この男の壮大なる勘違いがロマノフ王家を破滅へと導くことになるのだから。

そして、勘違いかどうかは関係ない。確かに言えることは、この『ラスプーチン』という男は、決して凡庸な人物ではなかったということだ。

 

巡礼後のラスプーチンは、当時のロシア帝国首都サンクトペテルブルクに上京することになるのだが、そこでの彼の活動には目を見張るものがあった。

巡礼者・祈祷師・宗教家・神秘主義者であるラスプーチンは、独自の方法で病に苦しむ人々の治癒にあたり始める。

そして、どういうわけか、彼が治癒にあたった者が次々と回復し始めるのだ。

一体どういうことだろうか?

ろくに字も読み書きもできないラスプーチンに医学の知識などあるはずがない。当然、彼の独自の治療とやらは、祈祷や神秘的手法といった迷信的で原始的なものばかりだったようだ。

患者に手をかざして念じたりなどと超非科学的を極めており、当時の医学者連中からは詐欺師との非難が殺到する。

それでも、当時の医者には治せなかった病を、ラスプーチンが治したことには変わりない。

当時のロシアは近代であるにも関わらず、迷信や神秘主義に傾倒する風潮が根強く残っていた。そんな風潮下で人々を覆う迷信も手伝い、ラスプーチンの名声はサンクトペテルブルク中に轟くことになる。

やがて、その名声は『ロシア皇帝ニコライ2世』『皇后アレクサンドラ』の耳にも入ることになるのだ。なんと、ラスプーチンは皇帝夫妻への謁見が要請されるまでに至ったのだ。

ラスプーチンが呼ばれるには理由があった。皇帝夫妻は、自身の息子アレクセイ皇太子の病に悩まされていた。その病は「血友病」と呼ばれるもので、体の内外問わず、一度出血が始まると止血が非常に困難を極める危険な難病である。

ラスプーチンは例の怪しげな手法を用いて、見事、アレクセイ皇太子の治癒までも成功させてしまうのだ。

人生には、かなり稀ではあるが、掴むべきチャンスが巡ってくる瞬間がある。ラスプーチンはこの時、人生最大のチャンスを見事掴んだというわけだ。

 

しかし、不思議だ。アレクセイ皇太子の「血友病」は、当時のロシア帝国内最において先端の技量をもつ医者達ですら治せなかったはずだ。

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なのに何故、よりによって無教養なラスプーチンだけがその治癒に成功したのか。

 

『ヒーリング能力』

 

現代においても、ヒーリングと呼ばれる超能力をもつと言われる者が後を絶たないが、こんなものは非科学的もいいところである。

が、それで末期的な病までもが治ったなどと主張する人も結構な数いるので、勘違いや思い込みだと100%断定することは難しい。

もしかしたらラスプーチンは、この『ヒーリング能力』という超能力を持っていたのかもしれない。

現在の説では、ラスプーチンはこっそり「アスピリン」を用いて患者の痛みを和らげていただけだ、との憶測もなされている。

そうだったのかもしれないし、彼は本物の超能力者だったのかもしれない。

当時の確たる証拠もないので、我々には憶測することしかできない。

 

醜悪を極めた、ラスプーチンの生活態度

その件以降、皇帝夫妻はラスプーチンに対し全幅の信頼を寄せるようになり、その信頼は高まる一方であった。

驚くべきことに、ニコライ2世はこの無学な男に対して政治的な問題に関しても意見を求めていたというのだから、ラスプーチンへの信頼はもはや崇拝の域に達していたようだ。

そうして、ロシア帝国内におけるラスプーチンの権力は絶大なものへとなっていく。

 

ところが、民衆からの崇拝や皇帝一家からの信頼を得たからといって、ラスプーチン自身は別に聖者でも何でもなかった。

彼は敬虔なクリスチャンを自称してはいたが、自己の欲求に従って教義を曲解しており、傍目から見れば「腐れ坊主」以外の何者にも映らなかったはずだ。実際、彼の私生活は荒廃を極めていた。

 

特に女絡みで。

 

ラスプーチンはたいそう女にモテたようだ。

そのミステリアスな雰囲気と独特のカリスマ性が多くの女性を惹きつけたようで、実際、彼を崇拝するのは女性信者が多数を占めていた。

ラスプーチンの方も大の女好きであり、その性癖はド変態であったものだから、彼の私室で何が行われていたかは想像に難くない。

ラスプーチンに対し懐疑的で、その政治的な影響力の拡大を恐れる貴族が、ラスプーチンの私生活をスパイした時の感想は、「ドン引きするほど、醜悪を極めた」生活態度であったという。

ラスプーチンを目障りに思う人達は当然、皇帝夫妻にもラスプーチンの放蕩っぷりを報告するのだが、皇帝夫妻の信頼が揺らぐことはなかったそうだ。

それどころか、こともあろうか、アレクサンドラ皇后とラスプーチンの肉体関係の噂までがたち始める始末である(コレはさすがにデマだろうが)

しかしながら、ニコライ2世は、そんな無視し得ぬ噂までも一蹴し、ラスプーチンへの崇拝を止めることはなかった。

皇帝陛下のこの危機意識の低さは恐るべきものだ。考えてみればロマノフ王家が滅んだ直接的原因とは、ラスプーチンよりもむしろ、皇帝ニコライ2世の愚鈍さだったのではないだろうか?

 

不死身ラスプーチンの予言

ラスプーチンに対し屈辱的な思いに耐えてきた帝国内の諸侯や貴族達だが、戦争が絡むとなれば全く話は違う。

1912年 バルカン戦争勃発

ラスプーチンはニコライ2世へ戦争への不介入を進言し、当然、皇帝夫妻はラスプーチンの進言を取り入れる。

しかし、これは同盟国であるバルカン諸国への裏切りと捉えられ、皇帝夫妻とラスプーチンは、国内の戦争介入派と真っ向から対立することになる。

ラスプーチンが皇帝一家をたぶらかし戦争の妨げとなるならば、この男には一刻も早く消えてもらうしかない。もっとも、この頃になると、ラスプーチンは自らの死も覚悟していたようだ。それは彼の不気味な予言からも伺える。

 

『私は、1917年を迎えることなく、

死ぬことになる。』

 

『私の死後、

ロマノフ王家は滅びることになる。』

 

この予言は、やがて的中することになるのだ。

 


『コイツ(ラスプーチン)には、この場で必ず死んでもらう。』

ユスポフは、イビキをかきながら心地よさそうに眠るラスプーチンの前に立った。その手にはピストルが握られており、ゆっくりとラスプーチンの心臓に狙いを定める。

 

『口の臭い淫乱坊主が!
おとなしく田舎で飴玉でもしゃぶっておればよいものを、国政にまでしゃしゃり出てくるとは、身の程知らずめが。』

 

引き金を引く指に一切のためらいはない。弾丸はラスプーチンの心臓の位置に命中した。

 

「やっと、全てが片付いた。」安堵のため息を大きくついたユスポフと妻は、次の瞬間、信じられない光景を目の当たりにする。

何と、息絶えたと思われたラスプーチンがむくりと起き上がりヨロヨロと出口へ向かっていくではないか!

 

『なんだ、コイツ!?』

 

腰の抜けたユスポフは、何とか恐怖を振り払い、ラスプーチンの後を追う。

あたり一面雪景色の中、ラスプーチンは庭を横切ろうとしていた。

仲間を連れたユスポフが、ラスプーチンに追いつく。

追いついたユスポフはアドレナリン全開で、自身の靴を握りしめ、ラスプーチンの顔面を全力で殴り飛ばした。ちなみに、その靴底は鉄板入りである。

目の陥没したラスプーチンを、仲間がさらに火打棒で殴打しまくる。

それでもむくりと立ち上がりヨロヨロと逃げようとするラスプーチンの姿に、一同の中に戦慄が走る。腰を抜かして動けなくなる者もおり、全員がガクブル状態だ。

 

しかし、絶対に逃すわけにはいかない。

 

ユスポフ一味は何とか恐怖と薄気味悪さに打ち勝ち、ラスプーチンの手足を縛り上げピストルでハチの巣にした後、極寒の川に放り込んだ。

 

これが『怪僧ラスプーチン』の最期となった。

 

 

 

 

その後、ユスポフはさらに驚愕の結果を知らされることになる。

 

 

 

 

 

 

 

検死結果による、ラスプーチンの死因。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『溺死』

 

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