書評

吐き気を催すほどの「悪」とは|「悪徳の栄え」は思わず破りたくなる一冊だ

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自分の大切にしている人を手にかけたなどと、懇意にしている知人から唐突に切り出されたとしたら、普通の人はどう答えるのだろうか。

おそらく最初はわけがわからず動揺するだろう。

時間が経て全てを理解し受け入れた時には、今度は、強烈な復讐心と気が狂わんほどの殺意に駆られはじめる。法律なんてものは基本「悪党」を守るためにつくられたようなものだ。法律に委ねてしまっては十分な復讐などできない。

相手に同様の苦痛を味わわせるには、相手と同様自らの手で実行する必要がある。それが正常な人間性だ。良い悪いの問題じゃない。

 

ところが世の中必ずしもそうした正常な人ばかりなわけではなく、どんな悪逆非道があっても、それを憎むどころか逆に共感する人間がいるらしい。

本来であれば排除すべき相手と、こともあろうか逆に親しくなる。「道徳」「倫理」「良心」などは、彼らには完璧に欠落している。最初から無いに等しい。

 

マルキ・ド・サド

マルキ・ド・サドの作品は以前から知っていました。実際に読んだのはつい最近のことです。最初は古くさいだけのエ◯小説程度にしか考えてなく、それほど興味もなかった。

しかしながら、実際に、代表作の一つである『悪徳の栄え』を数ページ読み進んだところ、大変な思い違いをしていたことに気付かされました。これは単なる堕落小説ではない。

 

あまりにヒドすぎて吐き気がする。

 

これほど胸くそ悪い本は、いまだかつて読んだことがありません。

 

神仏なんぞ一切信じない僕ですが、「神をも恐れぬ…」と思わずつぶやいてしまったほどに、とにかくヒドい。

 

人類史上最低の人間

マルキ・ド・サドは「サディスト」の語源にもなった人物です。有名なのでご存知の方もいるかもしれませんが、まずは簡単に紹介しておきましょう。

 

マルキ・ド・サドことドナスィヤン・アルフォーンス・フランスワ・ド・サドは1740年、パリに生まれました。

 

父親は伯爵、母親はブルボン家の血族という、まさに生まれながらの貴族です。ちなみに「マルキ」とは伯爵という意味だそうです。

 

貴族とはいいつつも、当時のパリ貴族は現代人が連想するような紳士・淑女然としたものではありません。強欲・色欲・暴食・虚飾などキリスト教でいう七つの大罪を見事に兼ね備えた連中です。紳士なんてとんでもない。

 

「あんたら、ほんとにクリスチャンか?」

 

と思わず突っ込みたくなるほど、パリ貴族の生活態度は退廃を極めていました。高額の恩給にもかかわらず、身をもち崩す貴族は後を絶たなかったといいます。

 

サドの父親もその例にもれず、ひどい浪費グセがあったようで、伯爵家でありながらもサド家の暮らしは裕福ではなかったそうです。

 

そしてサド伯爵自身も早い時期から堕落と退廃を極めていました。わかってるだけでも、

 

軍隊に入るはいいが訓練にもロクに参加せず、近場の村娘や家畜に強烈な暴行(変態行為)を働く。

娼館に入り浸るや危険な媚薬・毒薬を使いたおし、相手を危険にさらす。

貧しい未亡人を金で誘惑→監禁したのち、想像を絶する猥褻行為を働く。

 

などなど、サド伯爵の常軌を逸した暴挙は枚挙にいとまがありません。

 

当然ながら被害者からは訴えられます。裁判にかけられ、「獣にも劣る行為」として一度は死刑判決まで下される有様。

かろうじて死刑判決だけは免れたものの、サド伯爵は危険人物として監獄送りにされてしまいます。その収監先こそ、かの有名な「バスティーユ牢獄」です。

 

その長い牢獄生活で、サド伯爵は単なるド変態から、人類史上最低の汚物へと変貌を遂げることになります。

 

牢獄に入れたのは逆効果だったかもしれない

長い監獄生活がサド伯爵に反省を与えたのかというと、そうではありません。「欲望を満たそうにも相手(女)がいない」という如何ともしがたい抑圧は、生来の異常性を萎えさせるどころかむしろ増幅させてしまいました。

その鬱屈した衝動は執筆活動に向けられることになります。

 

 

自分の書いた小説で絶頂に達せらるるならば合格である

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サドは己の悪魔的な変態思想を文字で綴ることに命をかけ始めました。

 

そうして出来上がったのが、「ソドム百二十日あるいは◯◯学校」という、人外レベルのアウトプット。

 

しかしながら、書き上げるやいなや、不運?にもフランス革命が勃発。かの有名な「バスティーユ牢獄の襲撃」により、牢獄内はメチャクチャにされてしまいます。

サド自身はその10日前に精神病院に移送されていたため無事でしたが、渾身の力作が牢獄ごと焼かれたと聞いて卒倒したそうです。

 

 

ところが、こともあろうかどこぞのお節介が暴動が起こる前に原文をわざわざ大切に保管してたらしく、その忌わしい原文は再びサド伯爵の手にもどってしまいます。サド伯爵はその幸運をとても喜んだそうですが、これこそ人類にとっては不運以外の何物でもない、のは言うまでもありません。

 

ナポレオン・ボナパルトからも投獄される

1790年、サド伯爵は長い刑期を終えて出所しました。年齢50歳。もちろん、この男が悔い改めるはずがありません。

 

己の思想を文章化して世に出すことに喜びを覚えたのか、その後も執筆活動を精力的に続けました。いやむしろ、体力的な衰えを文字で補うかのごとく、その後も強烈なアウトプットを世に出し続けます。

 

そうして誕生したのが、『悪徳の栄え』と『美徳の不幸』という作品です。特に『悪徳の栄え』は醜悪を極めており、悪徳どころかもはや悪魔崇拝と呼べるものであります。

 

これらに怒り狂ったのがナポレオン・ボナパルト。そう、あのナポレオンです。当時、第一統領という権力の座にあったナポレオンは、『悪徳の栄え』を執筆した者を許しませんでした。

 

1803年。63歳のサド伯爵は再び牢獄(というか精神病院)にぶち込まれることになります。その後は年齢的な衰えもあったのか執筆活動にも冴えがなく、大した作品を出すことはありませんでした。

 

1814年 マルキ・ド・サド獄死。変態を極め貫き通した一方、人類にとっては災いでしかない人生でありました。

 

悪徳なコンテンツが受け入れられることの意味

サド文学がいくらクソだとはいえ、当時のフランス社会では広く受け入れられていたのは事実です。悪徳が世に受け入れられるということは、社会が乱れているということにほかなりません。

 

現にサドが活動していた当時のフランス社会は、革命まっただ中の大混乱期です。贅の限りを尽くしてきた王族・貴族が、怒り狂った民衆によって次々とギロチン台へ送られるような社会情勢。正義と悪の区別など無いも同然の時代です。

 

身近な例でいえば、ベトナム戦争もそうでしょう。当時のアメリカは不毛な戦いに対して厭戦気分が広がっていましたが、それに抗うように広まったのは「ドラッグ」と「フリーセックス」

 

日本でいえば全共闘でしょうか。あの当時、僕らのオヤジやじいちゃん世代は、「マルクス思想」などと知ったかぶってノリだけで暴れ回ってましたね。学生運動という名がつけば、あらゆる無法が正当化されたという。日本史における恥ずべき時代です。

 

悪徳が世に受け入れられるということは、世が乱れている証拠なのであります。

 

『悪徳の栄え』を読むには、強いメンタリティが必要

『悪徳の栄え』は、電子書籍で900ページを超える長編小説です。登場人物は基本的に悪人と犠牲者だけ。善人はおろか普通の人すら出てきません。そんな登場人物のセリフを通して、吐き気を催すようなサド自身の持論がこれでもかというくらい述べられています。しつこいくらいに。

 

僕自身堕落への耐性があったのでしょう、なんとか読破できました。が、普通の善良な方には無理だと思います。おそらく、出だし数ページで耐えられなくなるのではないかと。

 

一応は紹介はしてるけど、女性と未成年者は絶対に読まないでください。ナイーヴな方であれば生涯のトラウマになりかねません。

 

「ここまで煽っといて、今さら読むなはないだろう!」

と言いたい気持ちは重々にわかっています。

 

それでも敢えて言います。女性と未成年者と品行方正な方は絶対に読まないでください。

 

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公務員でありながら公務員が嫌いな完全社会不適合者。

 

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