投資

相場に人生を溶かされた「おっさん」シリーズ

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信用取引でストップ高を3度繰り返せば、

「億り人」になれる

 

そう豪語したのは、かつて職場を共にしていた「おっさん」だ。

おっさん曰く、「相場で勝つのは決して難しい話ではない」とのこと。「ゴールデンクロスを狙ってそこに全力集中投資すれば勝算は大いにある」のだと。

おっさんが描いてた絵図はこうだ。

1.フルインベストメントで信用買い
2.そのレバレッジの効いた状態でストップ高をキメる
3.大幅に含み益がのった状態で売り抜ける

 

この作業を3度繰り返せれば、人は簡単に「億り人」になれるんであると。あまりに。もはや妄想の域としか思えないだろうが、これがおっさんの渾身の投資哲学だったのだ。

おっさんには投資の教養がなかった。

当時、「米国優良銘柄の配当再投資戦略」を固めつつあった僕は、このクソ発言を前に返す言葉がなかった。おっさんに投資センスがないのはわかっていたが、まさかここまで酷いとは。

おっさんがはしゃいでたのは、その当時アベノミクスへの期待で日本株市場は絶好調だったからだ。ちょうど「日本経済復活」などとメディアが煽り立て世間が盛り上がっていた頃だ。

おっさんも例に漏れず、「億り人になって、翌年には仕事を辞めてベガスに移住する」という夢をもっていた。壮大すぎる野望に向けられた情熱はあまりに強烈で、おっさんは持てる資産もエネルギーも全てを相場にぶつけようとしていた。

ストップ高を狙うだけあって、確かにおっさんの投資先はハイリスク銘柄ばかりだ。聞いたことのない小型株ばかりで、特に熱を上げていたのが、プロスペクト【3528】という東証2部上場のわけのわからない不動産会社だ。

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最近は鳴かず飛ばずのクソ銘柄だが、ボラだけはアホみたいに高い。確かに当たればでかいが、もしハズせば手元資金は瞬時に蒸発するだろう。

おっさんの手元資金は当時700万円。その700万全てプロスペクト【3528】にブチ込もうとしていた。ブチ込むだけならまだしも、あろうことかロング建の信用取引だ。おっさんは自らを投資家と自称していたが、おっさんが投資家なら世のパチンカーはみな投資家ということになってしまう。

めまいを抑えながら、僕はおっさんを止めた。「目を覚ませ」と。リーマンショックの悪夢を忘れたのか?と。(リーマンショックの際、任天堂【7974】に投資してたおっさんは300万円吹き飛ばされている)

「あんたはリスクをとるべきじゃない。セゾン投信でも買って、ポートフォリオをバンガードで塗り固めるんだ。」

たかが700万といえど、おっさんにとってはそれが全財産だ。それを溶かす余裕など、おっさんにはないはずだ。

 

おっさん

性欲は半端ないわりに全くモテなかったおっさんは、当時50過ぎにしてようやく新婚を迎えたところだった。相手は中国人女性。出会い云々を聞いてみたところ、飲み屋で知り合ったらしき親切な中国人男性から紹介されたのだという。仲人役の謝礼(紹介料)として、その男性に30万円を払ったらしい。

そりゃブローカーだろ

突っ込もうとしたが、おっさんの種付けは既に完了済みであることを聞いて止めた。

しかも、こともあろうか結婚と同時に家まで購入しており、住宅ローンの残債は4,000万もあるという。

おっさんの場合、人生そのものがすでにリスクにまみれていたというわけだ。リスクをリスクで上塗りしてどうする?なにより、相場師を気取るにはあまりに年を食い過ぎてる。

何度か説得を試みたが、僕の力ではおっさんを止めることはできない。心からの助言も虚しく、おっさんは当初の計画を実行にうつした。

その後どうなったか?

残念ながら、最近までそれを知ることはできなかった。おっさんの暴挙の直後、僕には人事異動が決まり、おっさんともお別れすることになってしまったからだ。

異動の前日におっさんと2人でミナミで飲んだ際には、飲み代はおろか風俗代キャバクラ代まで全額出してくれた。やたら羽振りが良かったのは、その時点では結構な額の含み益を出してたからだろう。

おっさんの相場師としてのその後の生き様を見届けることができないのが、なにより悔やまれた。

 

あれから6年の歳月が流れた

おっさんとの記憶も風化しつつあったある日のこと。なんと、おっさんから電話がかかってきた。

本当に久しぶりだ。

どうやら、おっさんは来年の3月に定年退職を迎えるらしい。そして近々僕の近くに来る用事があるので、その際に久しぶりに会わないかと。

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申し出には喜んで応じた。積もる話もあるが、その前に確認しておきたいことが山ほどある。

あれからどうなった?

あの暴挙は報われたのか?

あのクソチャートを見る限りでは嫌な予感しかしない。

 

おっさんとの再会

久しぶりに会ったおっさんは、性格的には昔と特に変わっていなかったが、覇気は確実に削がれていた。真っ黒だった坊主頭も、ごま塩頭に変わっている。

おっさん「投資のほうはどうや? たしかアメリカに投資してるんだっけか? 儲かってんじゃないのか?」

開口一番、おっさんは僕の資産に探りを入れる。そう、「投資」こそが僕とおっさんを繋ぐ絆なのだ。第一声がカネの話なのは、むしろありがたい。

おっさん「資産は今どれくらいだ?」

僕の資産が気になって仕方がないらしい。「ベガス移住」という夢が破れたのは、口に出さずとも雰囲気でわかる。誠実ではないとは認識しつつも、その返答にはかなり控えめな(5割引)数字で答えた。

おっさん「増やしたもんだな!その年でそんだけ持ってりゃ上出来だぞ。」

おっさん「おれには投資の才能がなかったんだな。」

「自分が勝てない理由を才能などのせいするから稼げないのだ」という突っ込みは、今のおっさんにはとても言えない。

おっさん自身の投資話は、もはや言うまでもないだろう。

大方の予想どおり、おっさんはその後プロスペクトで大損こいた。一時的に含み益は出したものの、欲にかられたおっさんは売り時を見誤った。株価はあえなく下落に転じ、結果、400万の損失を被ったそうだ。8割下げたところで耐えきれずプロスペクトからは手を引いた。

その後、再起を図ろうとなけなしの残金とボーナス全額を合わせて、リブセンス【6054】に挑戦を挑んだらしい。が、これも大失敗に終わる。

リブセンスはクソ銘柄だ。こんな銘柄で稼げる奴は投機筋しかいないだろう。おっさんが失敗した理由は手に取るようにわかる。

リブセンスは求人の仲介企業だ。社長の村上太一氏が「史上最年少の上場社長」などとクソテレビでもてはやされていた頃は、リブセンスの株価はうなぎのぼりだった。おそらく、おっさんもそれにつられたのではないか。

しかしながらその後、リブセンスはSEO面での不正が発覚。稼ぎ頭だった「ジョブセンス」がGoogleの検索エンジンからはじき飛ばされた。リブセンスのビジネスモデルは、顧客流入の大半を検索エンジンで稼ぐものだ。当然ながら売上は大幅減、2000円を超えてた株価は700円台まで大暴落した。

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槍かと。

まさか、これに手を出していたとは…。おっさんからすれば、リブセンスこそ「最後の聖槍」だったようだが、こともあろうかその切っ先が自らに向かうとは、相変わらず投資センスはカケラもない。

リブセンスが死んだ時点で、おっさんの手元資金は尽きた。中国人の嫁さんからもかなり絞り上げられたらしい。離婚だけはなんとか免れたようだ。

以来、おっさんは投資どころではなくなり、今や種銭を貯めることで精一杯。地味で退屈な貯蓄生活を送っているという。

現在の所持金はいくらなのか。聞いてみたところ、

おっさん「なんとか150万円まで貯めたよ」

ほかには?

おっさん「ないよ」

僕は下を向くしかなかった。

 

150万円

 

1500万じゃない。150万円だ。おっさんの今の全財産は150万円だ。定年退職前の男の貯金額が、たったの150万円しかないというわけだ。

「退職金で約1500万入るから合計1650万円だな。」とおっさんは笑っていたが、僕は開いた口が塞がらなかった。

住宅ローンの返済はどうするんだ?1650万円なんて焼け石に水なんじゃないのか?

子供は今、小学校に上がるか上がる前だろう。今後の教育費はどうするんだ?

定年後も働くのか?働かざるを得ないだろうな。

なんとか働いて年金受給まで漕ぎ着けたとしても、今のままの生活を維持できるのか?

 

そもそもだ。家族を食わせていけるのか??

 

なぜあの時、オレの忠告に従い「セゾン投信」買わなかったんだ。あの時投資してれば、今頃2000万は下らないはずだ。と、喉まで出そうだったが、あえて引っ込めた。不安を感じてるのは誰よりも、おっさん自身だと思ったから。

再就職先は見つかったようだが、月給はたかだか23万。

おっさんには悪いが、ここから打開する術を僕は知らない。60過ぎから150万円で配当再投資戦略やったところで何になる。

 

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プロフィール

 

 

管理人の伴です。
 

 

公務員でありながら公務員が大嫌いな完全社会不適合者。

 

 

ワーキングプア脱出のため、アレコレ考え実践しています。守備範囲は主に株式投資。

 

 

若干貧しく育ったためか貧困問題にはやたらと敏感。コンプレックスの裏返しか。

 

 

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